9月に、東北地方の医学部設置の条件について少しまとめました。今回はこの記事の続報となります。
教員の選考基準案
東北薬科大学への医学部新設へ向けて、準備作業が加速しているようです。m3.comにて詳細が報道されています *1 。
東北薬科大学は11月11日、「第2回教育運営協議会」(委員長:里見進・東北大学総長)を仙台市で開催、教授をはじめとする教員等の公募および選考に関する基準(案)が了承された。
まだ情報は少ないため、この記事を一部引用しながらまとめてみます。詳細はぜひ記事全文をご一読ください。
ここで、「4つの留意点、7つの条件」についておさらいしておきましょう。
4つの留意点 *2
平成25年12月17日、復興庁・文部科学省・厚生労働省の3省庁で示した「東北地方における医学部設置認可に関する基本方針」に付された留意点。
留意点(必要な条件整備)
① 震災後の東北地方の地域医療ニーズに対応した教育等を行うこと (例:総合診療や在宅医療,チーム医療等に関する教育,災害医療に関する教育,放射線に係る住民の健康管理に関する教育等)
② 教員や医師,看護師の確保に際し引き抜き等で地域医療に支障を来さないような方策を講じること(例:広く全国から公募を行うこと, 既存の大学や医療機関,地方公共団体等との提携により計画的な人材確保を行うこと,特に人材が不足している地域や診療科の医師の採用には十分配慮すること 等)
③ 大学と地方公共団体が連携し,卒業生が東北地方に残り地域の 医師不足の解消に寄与する方策を講じること(例:地域枠奨学金や入試枠を設定すること等)
④ 将来の医師需給等に対応して定員を調整する仕組みを講じること(例:既存の医学部の定員増と同様に,入学定員のうち一部を平成○年度までの臨時定員とすること等)
7つの条件 *3
平成26年9月2日、文部科学省が「東北地方における医学部設置に係る構想選定結果」を発表した際に付した条件。
以下の事項について対応することを選定の条件とする。
(1) 選定後速やかに、宮城県をはじめとする東北各県・各大学、関連教育病院、地元医療関係者等の協力の下で、運営協議会(仮)を立ち上げ、自治医科大学等の先行事例も参考に、教員等の確保や地域定着策をはじめとした、構想の実現・充実のために必要な協議を開始すること。また開学後は、将来にわたり、復興のための医学部設置という趣旨に基づいた医学部運営がなされているかを担保し、各地域のニーズを踏まえた人材育成を行っていくための仕組みとして活用していくこと。
(2) 上記協議会の活用等により、東北大学をはじめとする既存の大学との教育面、卒後の医師確保における役割分担と連携を整理し、東北6県全体の医師偏在解消につなげる枠組みを確立し、仙台への医師の集中とならないようにすること。
(3) 東北地方の各地域の医療機関と連携した教育について、医療現場の負担が過重とならないことや、異なる実習場所でも同じ目的のもとで教育効果が上げられるよう配慮しつつ、早期体験実習から卒前・卒後を通じ、「地域全体で医師を育てる」という観点から、総合診療医養成に積極的に取り組むこと。その際、こうした教育及び教育設計に卓越した指導力を有する教員・指導医を確保し、仙台以外の宮城県各地(例えば医師不足に悩む宮城県北部等)、東北各地域において滞在型の教育もできるよう体制や環境を整備していくこと。
(4) 教員や医師、看護師等の確保について、公募を行うに当たり、地域医療に支障を来さないことを担保する具体的な基準や指針を定めて対応すること。看護師の確保についても具体的な方策(年次計画、採用方法、採用後の育成方法等)を示すこと。附属病院の拡張整備に当たっても、県当局と相談の上、地域医療に支障を来すことなく進めること。
(5) 医師の東北地方への定着を促す修学資金の仕組みについて、宮城県等と制度の詳細について精査し、単に東北地方に残るようにするのではなく、地域偏在の解消に対してより実効性が高く、かつ持続可能な仕組みとした上で、東北各県と十分な調整を行うこと。かつ、修学資金だけでなく、入学者選抜から学部教育、卒後研修を見通した定着策の充実に取り組み続けること。
(6) 入学定員について、開学当初の教育環境の確保、地域定着策の有効性といった観点から適切な規模となるよう見直しを行うこと(例えば、臨時定員20名を設定せず、100名の定員で開学すること、学費全額相当の奨学金対象人数を増やすこと等)。また、将来的に、全国の大学において定員調整を行うこととなった場合には、他の大学と協調して対応すること。
(7) 上記のほか、構想審査会において、別紙に掲げる意見・要望があったことを可能な限り採り入れ、東北地方における医学部新設の趣旨によりふさわしい大学とするよう努めること。
地域医療に支障をきたさないために
それでは、注目の「地域医療に支障をきたさない」ために、どのような対策を講じられるのか、についてです。
m3.comの記事では、このように書かれています。
了承された公募・選考基準の特徴は、応募に当たって、所属長(大学の場合には学部長、病院の場合は病院長など)による意見書を求める点だ。
そのほか、公募・選考基準には、
(1)医師数が少ない地域や特定の機関(大学、病院)から、極端に多く採用することのないようにする
(2)転出後の後任者確保の見通しと地域医療に及ぼす影響についても所属長の意見を基に総合的に判断
(3)選考に当たって、地域医療への影響を判断するに当たり、必要な場合には関係者の意見を聞く
(4)公募・選考状況は、個人情報に十分に配慮しつつ、大学別、地域別、講座・診療科別の人数を教育運営協議会に報告、地域医療への影響などを検証する
――などの条件が列挙された。
教員の公募・選考条件には、以下のようなプロセスが含まれることになります。
- 所属長の意見書
- 偏りがないこと
- 関係者の意見をきく
- 教育運営協議会が地域医療への影響などを検証
しかしながら、この記事からは「地域医療に支障がないこと」の具体的な定義については示されなかったようです。
定義が曖昧なまま、決定プロセスについては話し合われたようですが、9月の選定結果の頃から、ほとんど進歩がないように見えます。
第2回会議では、岩手医科大学理事長・学長の小川彰氏から、「地域医療に支障がない」との判断を誰がどのように判断するのかなどを問う声も上がった。
高柳理事長は、「教育運営協議会を主催し、運営するのは本学。委員の意見を聞いて、本学の責任において、文部科学省の構想審査会に提出することになる」などと回答。東北薬科大学に設置される教員等の選考委員会も、教育運営協議会の意見を踏まえて進めるものの、その責任は大学にあるとした。
文部科学省高等教育局医学教育課長の寺門成真氏は、「(教員採用が)地域医療に支障を来さないか否かは、今回の医学部新設の一番のカギ。最終的には、大学設置・学校法人審議会で判断するが、構想審査会でも判断することになる。屋上屋を重ねるわけではないが、それぞれの立場で役割分担をして念には念を入れてやっていく」と説明。
これらの説明を受け、小川氏は、この辺りのルールを明文化するよう求めた。
誰がどのように判断するのか(決定プロセス)だけではなく、その定義や基準については議論しておかなくてよいのでしょうか?
判断する人が「支障なし」と意見を述べれば、それでよいのでしょうか?
日本の医療政策もそうですが、こういったものの決め方(権威ある少数の人の意見で物事が決められていく)が、やや前近代的かつ非学術的で、新しい大学を設置するという事業にはふさわしくないように思えます。
これからの準備作業もこのように進んでいくかと思うと、あまり夢がありませんね。