異食(pica)という症状があります。ふだんわれわれが食用とはしないようなものを日常的に食べる食行動のこと、とでもいいますか。
いろいろな文化や慣習がありますので、一般的な日本人からみて「おかしい」と感じても、他国の人からは日常的なこともあるでしょう。また、その逆も然り。
考えてみると、異食を定義することは、とても難しい問題を孕んでいるように思います。
それはさておき、異食として有名なのは、泥や土、チョーク、毛など。そして、今回のテーマは氷です。氷を食べる人はよくみかけるような気がしますが、これがもし病気の症状だったら・・・。ひょっとして自分も?と心当たりがある人は多いかもしれません。
氷食症は鉄欠乏性貧血でみられるといわれています。その科学的根拠を調べてみることにしました。
「氷食症」驚きの検索結果
氷食症でGoogle検索すると、意外にたくさんの情報が検索されてきます。みな似たような情報で、情報源もほとんど記載されていません。信頼できる情報は少なそうです。
PubMedで検索することにしました。氷食症は"pagophagia"。そのまま入力して検索すると、なんと・・・
たった29件に絞られてしまいました~!!用語、間違えていないですよね?
それも2000年以降は15件のみ。最初の報告は1968年のAnnals Internal Medicine誌です。
Reynolds RD, Binder HJ, Miller MB, Chang WW, Horan S. Pagophagia and iron deficiency anemia. Ann Intern Med. 1968 Sep;69(3):435-40. PubMed PMID: 5244572.
最近の報告では外来患者262人の検討が興味深いところでしょうか。
Barton JC, Barton JC, Bertoli LF. Pica associated with iron deficiency ordepletion: clinical and laboratory correlates in 262 non-pregnant adultoutpatients. BMC Blood Disord. 2010 Dec 22;10:9. doi: 10.1186/1471-2326-10-9.PubMed PMID: 21176208; PubMed Central PMCID: PMC3022645.
感度37%
鉄欠乏状態で鉄剤を投与した18歳以上の患者262人を後方視的にカルテ調査した観察研究となっています。結果を表にしてみました。
鉄欠乏状態の患者のうち、37%(103人)に氷食症がみられています。
氷以外の異食としては、塩、砂糖、泥や土、クラッカー、洗濯用でんぷんのり、ピクルス、candy, cantaloupe, carbohydrates, carbonated beverages, chocolate-covered raisins, coffee beans, dry oatmeal, Gummi® worms, lemons, permanent markers, popcorn, raw cabbage (and broccoli and spinach), and strawberry ice cream・・・みなさんいろんなものを食べられるようです。
鉄欠乏がない人の異食はどのくらいみられるのでしょうか。氷をよく食べる人には貧血があるといえるかを知るためには特異度が知りたいところでしたが、めぼしい論文はなさそうです・・・。
またひとつ研究課題を発見。今後も調べていきたいと思います。