妊娠中の女性が血液検査でTSH高値を指摘されました。Free T4正常の潜在性甲状腺機能低下症で、すでに産婦人科で甲状腺ホルモン投与が開始していました。
しかし、ご本人は妊娠中期に入っており、影響を心配されていました。
妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症はどのような影響があるのでしょうか?少し調べてみました。
Dynamedには記載なし。UpToDateでは、"Hypothyroidism during pregnancy: Clinical manifestations, diagnosis, and treatment"の項がありました。さすが。そこからのピックアップです。
妊娠予後に与える影響
2つの観察研究と1つのランダム化比較試験が紹介されていました。そのうちのひとつをご紹介します。
Casey BM, Dashe JS, Wells CE, McIntire DD, Byrd W, Leveno KJ, Cunningham FG.Subclinical hypothyroidism and pregnancy outcomes. Obstet Gynecol. 2005Feb;105(2):239-45. PubMed PMID: 15684146.
P▶ 妊娠20週以下の妊婦について
E▶ 妊娠週数換算TSH 97.5パーセンタイル値以上かつfree T4 0.680 ng/dL以上の潜在性甲状腺機能低下があると
C▶ 妊娠週数換算TSH 5~97.5パーセンタイル値未満の正常甲状腺機能と比べて
O▶ 妊娠の予後は悪化するか
T▶ 予後、前向きコホート
《結果》※※
17,298人の妊婦のうち、潜在性甲状腺機能低下は404人(2.3%)にみられた。
潜在性甲状腺機能低下があると正常甲状腺機能に比べて
胎盤早期剥離 4/404(1%) 対 52/15689(0.3%)
相対危険 3.0 (95%信頼区間 1.1-8.2)
妊娠34週以下の早産 18/404(4%) 対 385/15689(2.5%)
相対危険1.8 (95%信頼区間 1.1-2.9)
こちらの2005年の観察研究では、潜在性甲状腺機能低下があると胎盤早期剥離や早産が多い、という結果になっています。
もうひとつの観察研究はどんな結果になっているでしょうか。
Cleary-Goldman J, Malone FD, Lambert-Messerlian G, Sullivan L, Canick J,Porter TF, Luthy D, Gross S, Bianchi DW, D'Alton ME. Maternal thyroidhypofunction and pregnancy outcome. Obstet Gynecol. 2008 Jul;112(1):85-92. doi:10.1097/AOG.0b013e3181788dd7. PubMed PMID: 18591312.
※論文PDFはこちらに公開されています。
この前向きコホート研究でも、妊娠中期までの潜在性甲状腺機能低下(TSH 97.5パーセンタイル値以上かつfree T4 2.5-97.5パーセンタイル値)について、妊娠予後をみています。
潜在性甲状腺機能低下は妊娠初期では2.2% (240 of 10,990)、妊娠中期では2.2% (243 of 10,990)にみられました。
こちらの報告では、いずれの時期でも潜在性甲状腺機能低下は妊娠予後には影響がない、という結果となっています。
妊娠中期での合併症発生頻度については、論文PDFを開き、Table 7をご覧ください。
残りのランダム化比較試験は、TSHスクリーニングをすべきかどうかを検討したものでした。割愛します。
以上から、妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症が妊娠予後に影響があるかどうかについては、2つの観察研究では首尾一貫した結論は得られていない、ということになるでしょうか。
治療が行われた場合には、このような合併症の危険性はさらに低くなっていると考えられます。
※記事内容は論文を紹介するものであり、一定の学術的な見解や治療指針を示すものではありません。詳細は原著論文をご参照ください。
こちらの報告では、いずれの時期でも潜在性甲状腺機能低下は妊娠予後には影響がない、という結果となっています。
妊娠中期での合併症発生頻度については、論文PDFを開き、Table 7をご覧ください。
残りのランダム化比較試験は、TSHスクリーニングをすべきかどうかを検討したものでした。割愛します。
以上から、妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症が妊娠予後に影響があるかどうかについては、2つの観察研究では首尾一貫した結論は得られていない、ということになるでしょうか。
治療が行われた場合には、このような合併症の危険性はさらに低くなっていると考えられます。
※記事内容は論文を紹介するものであり、一定の学術的な見解や治療指針を示すものではありません。詳細は原著論文をご参照ください。