「青い魚を食べると、体中魚の臭いがして気になるのですが。」
外来でお子さんの臭いに関するご質問をいただきました。悩まれてネット検索もかなりされたようで、「魚臭症候群」という病気ではないか、と心配されているようでした。
このようなご相談ははじめてでしたので、調べてみることにしました。
確かに、「魚臭症候群」で検索すると、いろいろ情報が検索されてきます。いくつかリンクをご紹介します。
X51.ORG : 体が"腐った魚"の臭いに ー 魚臭症候群とは
「臭いの悩みは、自己存在にかかわる悩みであり、社会性の障害をもたらす」本人にとっては重大な問題のです。
わきが多汗症相談室 魚臭は魚臭症候群(トリメチルアミン尿症)の可能性もあります
代謝異常と言っても、「トリメチルアミン尿症」の場合には、体から「魚臭のようなニオイ」を発すること以外にほとんど心身障害を伴いません。
トリメチルアミン尿症 - Wikipedia
トリメチルアミン尿症(トリメチルアミンにょうしょう、英語名:Trimethylaminuria)は、摂取した食物を体内で消化分解した際に発生したトリメチルアミンが分解されず、汗や尿、呼気の中に排出されてしまう疾患の事。
「トリメチルアミン尿症」とも呼ばれているようです。
PubMed検索をしてみました。用語は"fish odor syndrome"または "trimethylaminuria"でしょうか。CMAJに症例報告がありました。
Li M, Al-Sarraf A, Sinclair G, Frohlich J. Fish odour syndrome. CMAJ. 2011 May 17;183(8):929-31. Epub 2011 Mar 21. PubMed PMID: 21422137; PubMed Central PMCID: PMC3091902.
rosuvastatin投与後に発生した魚臭症候群の一例
この報告に魚臭症候群に関する記載があります。要旨をまとめてみます。
・魚臭がみられる原因としては、衛生状態が悪い、歯肉炎、細菌性膣炎、尿路感染症、進行した腎・肝疾患などがある。トリメチルアミン尿症はそれらより少ない。
・魚臭症候群と呼ばれるトリメチルアミン尿症は1970年にはじめて報告された。トリメチルアミンが尿、呼気、汗、膣から異常に分泌されることが特徴である。
・一次性・二次性の肝腎疾患のほか、トリメチルアミンの前駆物質であるコリン、レクチン、カルニチンを食事からとりすぎることからもおこる。
・原発性の魚臭症候群は常染色体劣性遺伝の遺伝性疾患である。欠損酵素はflavin-containing monooxygenase 3(FMO3)で、染色体座位は1q23–25。
・食事で摂取されたコリン、レクチン、カルニチンが腸管内でバクテリアに分解されてトリメチルアミンが生成・吸収され、肝臓でFMO3によってtrimethylamine N-oxideに変換され、尿に排泄される。
・魚臭症候群では、このtrimethylamine N-oxideへの分解が弱くなっている。そのため、多量の揮発性分子が体液から分泌されることとなり、強い魚臭の原因となる。
・トリメチルアミン尿症はまれなものと考えられていたが、報告からは当初考えられていたよりも有病率が高いのではないかと思われる。
・ヘテロ保因者は英国では1%、エクアドルでは3%、ニューギニアでは11%との報告がある。ヘテロ保因者では一時的に症状がみられたり、軽い症状がみられることがある。
・治療はカウンセリングや食事療法など。行動カウンセリングだけではなく原発性の場合には遺伝相談も考慮する。
・食事療法はコリンが含まれる食品をひかえるなど。
・短期間の低用量ネオマイシンやメトロニダゾールがトリメチルアミンの腸管内での発生をおさえるかもしれないという専門家見解がある。
・弱酸性石鹸が臭いをへらすかもしれない。
診断のための検査はどのように行ったらよいでしょうか?一般的には行われていない検査のようですが、こちらのページが参考になります。トリメチルアミン尿症や食品中のコリンについても詳しい情報が得られます。
魚臭症候群,魚臭症,トリメチルアミン尿症,Trimethylaminuriaの日本におけるホームページ
まだ学会報告レベルのようですが、これからも注視していきたいと思います。