経管栄養をすると延命できますか? - 地域医療日誌 by COMETにつづきます。
ある新聞記事で、経管栄養について「認知症で、終末期の寝たきりの患者でも、何年も生きられる例が増えた」と報じられました。そのことを前提として、「そのような延命が必ずしも本人のためになっていない」と論じられています。
果たしてそうなのでしょうか。認知症の人に経管栄養を行なって延命できるのか、という疑問について調べてみました。
すぐに2009年のコクランのsystematic reviewが見つかります。確認してみましょう。
Sampson EL, Candy B, Jones L. Enteral tube feeding for older people withadvanced dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2009 Apr 15;(2):CD007209. Review. PubMed PMID: 19370678.
■重度の認知症の人に
■経管栄養を行うと
■行わないのと比べて
■死亡率が低下するか
■治療、システマティックレビュー
■結果(※※)
ランダム化比較はなかった。6つの死亡率を検討した観察研究がある。ひとつの研究(Jaul 2006)では、経口摂取(中央値40日)に比べて、経鼻胃管(中央値250日)では生存期間の延長を認めたが、併存疾患で調整すると優位有意ではなかった。 それ以外の5研究ではいずれも経管栄養による死亡率低下はみられなかった。
- Murphy 2003:生存期間(中央値):胃ろう 59日、経管栄養なし60日
- Mitchell 1997:死亡率:経管栄養の相対危険 1.06(95% CI, 0.81 to 1.39)、調整後 0.90 (95% CI, 0.67 to 1.21)
- Meier 2001:生存期間(中央値):経管栄養195日(21 to 405)、経管栄養なし189日(4 to 1502)
- Alvarez-Fernandez 2005:死亡率:経鼻胃管の相対危険3.53(95% CI, 1.5 to 8.30)
- Nair 2000:6か月での死亡率:胃ろう44%、胃ろうなし26%
認知症でも経管栄養で延命は証明されていない
すべて観察研究となっていますが、経管栄養にて延命できることを明らかに証明した研究はありませんでした。むしろ、経管栄養のほうが死亡率が高いという観察研究もあります。
今後、本当に延命できるのかさらに解明されていくだろうと思いますが、現状の科学的根拠では、認知症でも経管栄養で延命できると言い切るのには、ちょっと飛躍があるように思います。
経管栄養を行わないという選択肢が、寿命を本当に縮めるのかどうか、わかっていません。感情論に流されることなく、治療方針を決めていただきたいと思います。少なくとも経管栄養をやらない選択に罪悪感を感じる必要はなさそうです。