鼻吸引してもらえますか?(1)

 

  「子供の鼻、吸引してもらえますか?」

  乳幼児の鼻副鼻腔炎などの急性上気道感染症で、鼻吸引をしてほしいという要望は意外によく聞かれます。

  • 鼻が通らないと息が苦しそう
  • 鼻がかめないから
  • 鼻がつまって眠れないから
  • いつも耳鼻科でやってもらっているから

など理由はいろいろのようです。

  ところで鼻吸引などの処置には、一体効果はどれほどあるのでしょうか?

  もちろん、鼻が通って楽になるという一時的な効果はあるでしょう。鼻処置はそれが治療効果としてどのような位置づけにあるのか。調べてみることにしました。

鼻吸引1回120円

  その前に、鼻吸引は保険診療として処置料が認められています。しろぼんねっとから。

鼻処置(鼻吸引,鼻洗浄,単純鼻出血及び鼻前庭の処置を含む。)  
12点
鼻処置には,鼻吸引,鼻洗浄,単純鼻出血及び鼻前庭の処置が含まれており,これらを包括して一側,両側の区別なく1回につき所定点数を算定する。

1回の処置で医療機関に支払われるのは120円となっています。

ガイドラインはコンセンサス?

  日経メディカルオンラインで、鼻吸引に関する記事が掲載されていました。

急性鼻副鼻腔炎、治療の基本は鼻汁の吸引 
  急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインでは、重症度に応じた治療アルゴリズムが示されている(図1~3)。粘性の鼻汁や湿性咳嗽が認められるなど、臨床症状と鼻腔所見から急性鼻副鼻腔炎と診断された患児に対しては、「まず、鼻処置を優先して行うことが重要」と千葉県立保健医療大健康科学部教授の工藤典代氏は話す。 
  鼻処置に関して、エビデンスによる裏付けはないが、鼻処置によって臨床症状が改善することは経験的に知られている。ガイドラインを作成した専門医の間でもコンセンサスが得られたため、鼻処置は重症度によらず優先して行うという位置付けとされた。

  鼻処置についてはエビデンスによる裏付けがないということが書かれています。あくまでも科学的根拠がないが経験的によいのでやりましょう、というもののようです。


  この記事では、コンセンサスの割に「治療の基本」「ぜひ取り入れるようにしてほしい」など、推奨される治療であるかのような印象を受けます。実際のガイドラインはどうなっているのでしょうか?読んでみることにしました。

急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010年版(日本鼻科学会)[PDF]
CQ14―4B 急性細菌性鼻副鼻腔炎の症状の改善に鼻処置,自然口開大処置は有効か
推奨グレード C1  本邦では外来鼻科診察において鼻処置は必須とされている。中鼻道を明視・観察し,自然口開大と吸引嘴管によ る処置を行うことで,症状の改善が期待される。

  鼻処置,自然口開大処置,ネブライザーという一連の処置治療の報告は限られ有効性を示す症例対照研究 の報告が散見されるに留まる
  慢性副鼻腔炎患者の急性増悪時の対応として鼻ネブライザーの有効性が報告されており,急性鼻副鼻腔炎患者に対する鼻ネブライザー治療にも効果が期待されますが,必ずしもエビデンスが十分ではなく検討が必要である。

科学的根拠はないが推奨

  急性鼻副鼻腔炎とは,「急性に発症し,発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症で,鼻閉,鼻漏,後鼻漏,咳嗽とい った呼吸器症状を呈し,頭痛,頬部痛,顔面圧迫感などを伴う疾患」と定義されています。

  なぜか鼻処置の記載は、ネブライザーと混在しています。


  推奨度はC1ということですが、CがC1とC2に分かれており、「C1:科学的根拠はないが,行うよう勧められる。」となっています。

  鼻処置については、慢性副鼻腔炎の急性増悪時において、ネブライザーの有効性が報告されていますが、それ以外の効果については十分検証されていない、ということのようです。

  しかし、これまで経験的に必須とされてきた処置なので、もはや疑問を差しはさむ余地なく推奨、という結論でしょうか。アルゴリズムではやはり「鼻処置を優先する」と記載されています。

  さらに鼻処置について、調べてみたいと思います。

 

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