地下鉄サリン事件の被害者へのインタビュー「アンダーグラウンド」にひきつづき、村上春樹さんがオウム真理教の信者、元信者にインタビューした「約束された場所で-underground 2」。
文藝春秋
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感情を揺さぶられるインタビューの連続でしたが、村上さんの「まえがき」「あとがき」が印象的でした。
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小説家が小説を書くという行為と、彼らが宗教を希求するという行為とのあいだには、打ち消すことのできない共通点のようなものが存在していることを、ひしひしと感じないわけにはいかなかった。そこにはものすごく似たものがある。それは確かだ。
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オウム真理教とわれわれとの共通点、それはとても示唆に富む視点であると思います。本書を読み進めながら、医療従事者が医療を行うという行為との共通点というものを、意識せざるを得ません。
「あとがき」では、1932年に満州国が建国された当時との類似点を指摘しています。
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オウム真理教の場合、同時代的に起こった出来事であるが故に、今ここで明快にその何かの内容を定義してしまうことにはやはり無理があるだろう。しかし広義的に言えば「満州国」的状況について語れるのとだいたい同じことが、オウム真理教事件にも適応できるはずだと私は考えている。そこにあるものは「広い世界観の欠如」と、そこから派生する「言葉と行為の乖離」である。
多くの理科系・技術系エリートたちが、現世的な利益を捨ててオウム真理教に走った理由は個々様々であるだろう。しかし彼らが共通して抱いていたのは、自分たちが身につけた専門技術や知識を、もっと深く有意義な目的のために役立てたいという思いであったのではないか。
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効率性を追求した社会、功利的な社会。
記憶が新しいせいか、オウム真理教事件は、震災による原子力発電所事故との類似点を彷彿させます。そしてそれは、いまだ日本人に根ざしている根源的な問題、「重大な欠落点」を浮き彫りにしているように思えます。
医療という科学技術を行使するにあたり、それを利己的に行使しようとするにあたり、よく考えたい問題でもあります。