五十嵐の10の軸

 

  われわれ地域医療の業界には「五十嵐の10の軸」という指針があります。自治医科大学地域医療学前教授の故五十嵐正紘さんが編さんしたものですが、総合医療や家庭医療の分野では、いちど深く味わっておいたほうがよい指針です。

  「総合医療の基本要素」というタイトルですが、基本はいつの時代でも変わらないものであると思います。ひとつずつかみしめてみたいと思っています。
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総合医療の基本要素  自治医科大学地域医療学 前教授 五十嵐正紘編

*10の項目から成っているため、『五十嵐の10の軸』と呼ばれています
学習、研修に当たっては、以下10項目の知識、技能、態度を身につける
(類似語:プライマリ・ケア、総合診療、包括医療、全人医療、家庭医療、地域医療)

◆総合医療の最も重要な基盤は、

1 近接性 
無差別性:患者を選ばない問題を選ばない
精神的:良好な医師患者関係
時間的:時間外の初期救急を含め
経済的:費用効果思考に基づく行動

2 日常性
日常問題、日常病
単純な頻度でなく,頻度×重要度(重症度,影響度)の大きい順に

◆この基盤のもと以下の場で、そのニーズを反映して仕事をする。

3 全人
生物医学的:視点と並行して
心理的
社会的
倫理的:視点からも思考と行動ができる

4 家庭
家庭を一診療単位とした思考と行動ができる

5 地域
地域を一診療単位とした思考と行動ができる
保健、医療、福祉を統合した地域医療を実践する

◆この基盤と場を背景にして、総合医療は次のことを実現する。

6 質の保証
quality of life(いきがい、自己実現)の維持向上を尺度とした医療,保健,福祉の質を保証する思考と行動ができる

7 個別性
個別の事情に応じた思考と行動ができる
多くの選択肢を示しつつ、患者の自己決定の支援ができる

8 生態学的接近
多面的、学際的、有機的、総合的な思考と行動ができる

◆これらを実現するために、以下の役割と責任が必要である。

9 役割
患者の道案内役、弁護士役
患者や医療関係者の調整役、聴き役、説明役、連絡役を担う思考と行動ができる

10 責任
継続性(当面の問題の継続性,生涯にわたる継続性)
責任性(主治医としての)
民主性(患者との対等な関係)
を実現する思考と行動ができる
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  五十嵐さんの生前のインタビューでも触れられています。
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月刊地域医学 2007年1月号
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