科学社会学と開かれた医療

 
  科学(医学)はどこへ向かっているのでしょうか。これからご紹介する2冊の本を読んで、いろいろ考えさせられています。うまく文章に整理できるかどうか・・・。
 
  たまたま同時期に手にした本でしたが、どちらも「科学社会学」の領域に関連するものでした。科学社会学、残念ながらこれまでは馴染みのない分野でしたが、もう少し学んでみたい分野です。
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科学社会学 - Wikipedia
sociology of science
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  まずは、こちらから。

「患者中心の医療」という言説―患者の「知」の社会学
松繁 卓哉
立教大学出版会
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  糖尿病をもつわれわれの仲間の一人は、1年8760時間のうち、8757時間自分自身のケアをしています。その1年に専門医のケアを受けた3時間以外の。医療専門職の専門性というのは、そういう小さい程度のものなんです。
(p.128より一部引用)
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患者中心の医療という限界

  これまで日常診療は、「患者中心の医療の臨床技法」(Stewart M)を基本としたスタイルで診療を行ってきました。
  伝統的診療スタイルに対する反省から生まれた方法でもあり、より患者側に寄り添った診療スタイルになると一定の手応えを感じています。

  しかし、この方法には限界があるとも感じます。医学的な病気(disease)だけではなく、患者自身の病い体験(illness)を把握しながら展開していく方法ですが、把握しようすればするほど、その難しさに直面します。また、限られた診察時間の中で、効果的に診療に役立つ情報を引き出すようになるには、訓練も必要です。

  さらに、必要に応じてとはいえ、個人の価値観(person)や文脈(context)などの詳細な生活情報に立ち入っていくことは、至難の技です。

  しかし、このような方法でさえ、患者さんの生活のごく一部が切り取られているに過ぎません。掻い摘んだ情報は全体をとらえていないでしょう。「患者中心の医療」という言葉に騙され、医師が自己満足に陥ってしまうリスクもあります。


当事者知を取り入れた開かれた医療へ

  本書では、「専門知」に基づく医療者主導の患者中心の医療には、自ずと限界があると指摘しています。
  当事者であり、病の体験者でもある「素人の知」を取り入れるような、より開かれた医療のアプローチは今後さらに求められることでしょう。

  「当事者知」を取り入れる方法として、英国の事例(Expert Patients Programme)が紹介されていましたが、たいへん興味深い取り組みです。日本ではどのような展開があるのか、研究の余地があると思います。
 
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