ようやくコレステロールが話題になっています。発端はこのニュース。毎日新聞から。
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コレステロール値:「高い方が死亡率低い」 日本脂質栄養学会で研究成果発表 /富山
◇きょうから日本脂質栄養学会、ガイドライン策定へ
動脈硬化の原因の一つとされるコレステロールについて、日本脂質栄養学会(理事長=浜崎智仁・富山大学和漢医薬学総合研究所教授)が「総コレステロール値またはLDL(悪玉)コレステロール値が高い方が総死亡率が低い」とする研究成果をまとめた。3、4日に愛知県犬山市で開かれる第19回日本脂質栄養学会で発表する。【青山郁子】
日本では狭心症などの持病がない場合、血中のLDLコレステロール値が140ミリグラム以上で高脂血症と診断される。日本動脈硬化学会が07年に定めたもので、厚生労働省や多くの医療現場が基準値として採用している。
浜崎教授らは、東海大学が神奈川県伊勢原市の老人基本健診受診者(男性8340人、女性1万3591人)を平均7・1年間追跡した調査などを分析。男性ではLDLコレステロール値が79以下の人より、100~159の人の方が死亡率が低く、女性ではどのレベルでもほとんど差がないとの結果を得た。
また、茨城県などが冠動脈疾患や脳卒中の既往歴のない男女約9万人(40~79歳)を対象に平均10・3年間追跡した調査でも、冠動脈疾患死とコレステロール値との因果関係はみられなかった。
これを受け脂質栄養学会は昨秋、浜崎教授を委員長に「長寿のためのコレステロールガイドライン策定委員会」を設置。「特別な場合を除き、動脈硬化性疾患予防に(コレステロール値)低下目的の投薬は不適切」などとする内容を盛り込むことを検討している。特に投薬治療を受けている患者の約6割を占める女性は、閉経後に平均値で30~40ミリグラムは上昇するとされ、基準値に男女差がないことも問題視している。
今後は各方面の意見を聴き、来年度に学会として正式なガイドラインを発表する予定。
浜崎教授は「日本でコレステロール値を下げる薬の売り上げは年間約2500億円。関連医療費も含めると7500億円を上回る。この中には多額の税金も投入されており、無駄と思われる投薬はなくすべきだ」と話している。
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ふたつを分けて考えよう
コレステロールが高い人はどんな傾向があり、低い人はどんな傾向があるのか。これは、ぞれぞれが将来どのような経過をたどるのかを観察することで、知ることができます。このような研究を観察研究といいますが、観察研究のうち、ある地域全体の集団を追跡していく調査を「コホート研究」とよんでいます。
ある集団の10年後の将来を知るためには10年の観察期間が必要になります。追跡する集団の人数も多いですから、コホート研究にはたいへんな時間と労力を使います。このような努力によって、はじめて日本人のコレステロールが高い人はどんな傾向があるのかを知ることができるのです。
それではコレステロールが高い人に、コレステロールを下げる薬をのんでもらうと、ニセ薬をのんでもらうのに比べて、どんな傾向があるのか。これは、さきほどの観察研究とは違う疑問で、薬の治療効果をみる研究が必要です。このような研究を介入研究といいます。どちらの薬をのむかわからないようにして、サイコロを振って決めて公平な条件で研究することを「ランダム化比較試験」とよんでいます。
コレステロールが高い人がどうなっていくか、という疑問と、コレステロールを下げる薬をのむとどうなるのか、という疑問は、まったく別の問題です。このふたつを分けて考える必要があります。
0.5%が0.33%に減少
コレステロールを下げる治療に関しては、2006年に日本人のランダム化比較試験が発表されています。
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Nakamura H, Arakawa K, Itakura H, et al.; MEGA Study Group. Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial. Lancet. 2006 Sep 30;368(9542):1155-63. PubMed PMID: 17011942.
■心血管疾患のない高コレステロール血症(220~270mg/dL)の人が
■スタチン系コレステロール低下薬(プラバスタチン)を内服すると
■食事療法のみと比べて
■冠動脈疾患の発症は少ないか
■治療、ランダム化比較試験
■結果
冠動脈疾患
食事療法のみ:1000人年当たり5.0人
プラバスタチン:1000人年当たり3.3人
ハザード比:0.67(0.49-0.91)
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CMEC-TV
心疾患のない高脂血症にプラバスタチンは有効か? 2010年4月12日
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日本人は冠動脈疾患の発症が世界で最も少ないグループです。発症が少ない集団では治療効果も小さくなるのですが、それでもコレステロールを下げると33%少なくなるということがわかっています。
これは1000人当たりですから0.5%が0.33%に減るということです。これは588人を1年間治療して1人の冠動脈疾患を減らす効果になります。
冠動脈疾患撲滅キャンペーン
このような治療効果については、製薬会社からも十分な情報提供がなされていないように思えます。
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コレステロール甘くみない!!!
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もちろん治療が進化しているとはいえ、冠動脈疾患は怖い病気です。冠動脈疾患を撲滅しようとするのであれば、わずかな効果でさえも、巨額の医療費をかけて早期発見して治療するという姿勢が必要なのでしょう。
治療によって癌が増えるという懸念も指摘されています。治療を受けるかどうかについては、よく吟味する必要があるでしょう。
コレステロールは低くても危険
日本人のコホート研究によると、総コレステロール値が280mg/dL以上、160mg/dL未満では死亡率が高くなるが、その間では死亡率は高くならないという結果になっています。
これはコレステロール値と将来の死亡との関係をみた観察研究で、高ければ治療したほうがよいという根拠にはなりませんが、日本人の統計からでは、現在の基準では厳しすぎるのではという声もあります。
くわしくは、こちらに詳しく紹介されています。ぜひご一読ください。
治療をためらうあなた、案外正しいかもしれません。
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