抜き打ち検査で発覚
最近、後発医薬品(ジェネリック医薬品)に関するこのような報道がありました。
ジェネリック3品目「不適合」=十分に溶けず自主回収-厚労省 (時事ドットコム)
厚生労働省は19日、価格の安い後発医薬品(ジェネリック医薬品)を対象とした品質検査で、流通する531品目のうち3品目が体内で溶けだす基準を満たさず「不適合」だったと発表した。
同省によると、3品目はたんを出しやすくするムコセラムLカプセル45(大洋薬品工業)、パーキンソン病などに用いるドロキシドパカプセル100mg「マイラン」と同200mg「マイラン」(マイラン製薬)。
いずれも溶けだす基準をわずかに下回り、検査した製品は十分な効き目を得られない恐れがあった。健康被害はなかったが、両社は自主回収を済ませ、基準を満たす製品を作り直したという。(2010/08/19-19:54)
【厚労省】後発品の調査結果公表‐35成分640品目を調査、2成分3品目が不適合 (薬事日報)
厚生労働省は19日、2009年度の「後発医薬品品質確保対策事業」による検査結果報告書を公表した。対象となったアカルボースやアシクロビルなど35成分640品目のうち、2成分3品目が、製造販売承認書に定める溶出規格で不適合となったことが明らかになった。
この事業は、07年10月の「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」に基づき、08年度から行われている。後発品の品質確保の観点から、国の取り組みの一つとして、都道府県などの協力のもと実施している医薬品等一斉監視指導で、検査品目を拡充し、溶出試験等の品質検査を実施すると共に、検査結果を公表している。
<略>
検査項目は溶出試験、含有試験、放出試験、確認試験、エンドトキシン試験のいずれか、または複数を実施した。各検査項目の試験方法については、日本薬局方や日本薬局方外医薬品規格で規格が定められている場合には、局方または局外規に規定されている検査法を用いた。
その結果、溶出規格を逸脱していたのは、大洋薬品工業の「アンブロキソール塩酸塩15mg錠」、マイラン製薬の「ドロキシドパ100mgカプセル、同200mgカプセル」の3品目で、いずれも既に自主回収を済ませている。
<略>
販売されているジェネリックについて抜き打ち検査を行ったところ、規格外の製品が見つかったということでしょうか。これはあまり大きな問題とはなっていませんが、たいへん深刻な事態ではないでしょうか。
厚生労働省の「後発医薬品品質確保対策事業」、素晴らしい取り組みです!!
さて、ジェネリックに問題があることが発覚し、そのまま自主回収を終えていたというのは、一体どういうことでしょうか?対応が早すぎませんか?
ジェネリック信頼性の根幹を揺るがす事件のように思いますので、少し調べてみました。
医薬品の自主回収
医薬品の自主回収はどのくらい行われているのでしょうか。どこを調べればよいか、みなさんご存知ですか?探してみました。
医薬品医療機器総合機構
このページに過去3年間の回収に関する情報が掲載されています。クラスIIをクリックしてみてください。確かにありました。
2-3890 2010/05/07
医薬品 アンブロキソール塩酸塩徐放カプセル
ムコセラムLカプセル45
大洋薬品工業株式会社
回収終了
この大洋薬品工業、ジェネリックの大手製薬企業ですが、他に回収している薬があることがわかりました。
2-4004 2010/07/23 医薬品 (1)-(2)テオフィリン徐放錠
(1)テルダン錠200
(2)テルダン錠100
大洋薬品工業株式会社
2010/7/26 販売名、回収理由、危惧される具体的な健康被害、回収開始年月日の訂正
2-3756 2010/02/03
医薬品 含糖酸化鉄
テチプリン静注液40mg
大洋薬品工業株式会社
2010/3/8 対象ロット、数量、出荷時期及び回収理由の訂正
回収終了
2-3626 2009/09/28
医薬品 なし
ガスポートD錠20mg
大洋薬品工業株式会社
回収終了
1年間で随分たくさん回収を行っているようですが、大丈夫でしょうか。会社のウェブサイトには、ガスポートDの件について、掲載されています。一部引用抜粋します。
大洋薬品工業株式会社
再発防止に向けた当社の取組み
当社は、昨年「ガスポートD錠20mg」において承認規格外製品を工場から製造・出荷した事実に対し、岐阜県より薬事法違反として行政処分を受けました。 (処分内容:製造業の業務停止処分、業務停止期間:2010年3月26日(金)~4月3日(土)の9日間)
皆様には多大なご迷惑とご心配をおかけしましたことを深く反省し、心よりお詫び申し上げます。
当社内では、問題の再発防止に向けた取組みを実行するため、再発防止委員会を設置いたしました。その活動内容を皆様に広く公開することは当社の重要な責務であり、その一環としてホームページを活用した積極的な情報公開を実施して参ります。
しかし、今回のムコセラムLカプセルに関しては、一切情報提供されていません。もう自主回収も終えているのではなかったでしょうか?積極的な情報提供は?
ジェネリック製薬企業の安全感覚に、疑問符がつきませんか?
品質検査の不正行為
大洋薬品工業について、ブログ「内科開業医のお勉強日記」でも紹介されていました。(いつもありがとうございます。とてもいいお勉強になっております。)
内科開業医のお勉強日記
意図的に品質検査で不正行為を行っていたことが発覚したようです。ジェネリック医薬品が、ブランド医薬品に比べて、このような事態が起こりやすい状況になっているだろうことが推測されます。
これは医薬品という命に関わる製品をつくる企業にとっては、重大な過失と考えられます。
繰り返しこのような問題を起こした企業が、今もジェネリックを作りつづけています。そして、ジェネリックを推奨する世間の風潮の中、処方した医師が知らないところで、その薬が患者さんの手に渡ってしまっているかもしれないのです。
このような過失が繰り返し起こるのに、再発を防げないのは、なぜでしょうか。ジェネリックは安全、という根拠はどこにあるのでしょうか。
ジェネリックがどのように市場に出回っているのか、さらに調べてみることにしました。
生物学的同等性の許容範囲
ジェネリック医薬品の安全性の根拠は、先発医薬品と生物学的同等性が確認できている、ということです。これは有効成分の血中濃度の測定で確かめることとされており、その方法は「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に定められています。
ガイドラインはこちらからPDFダウンロードできます。
国立医薬品食品衛生研究所 NIHS
薬品部関連のガイドライン
後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン(2006/11/24改正)のPDFをクリックしてください。
http://www.nihs.go.jp/drug/be-guide/GL061124_BE.pdf
ガイドラインから、「生物学的同等の許容域」の部分を引用します。
生物学的同等の許容域は,AUC 及びCmax が対数正規分布する場合には,試験製剤と標準製剤のパラメータの母平均の比で表すとき0.80~1.25 である. AUC 及びCmaxが正規分布する場合には,試験製剤と標準製剤のパラメータの母平均の差を標準製剤の母平均に対する比として表すとき-0.20~+0.20 である.作用が強くない薬物では,Cmaxについてはこれよりも広い範囲を生物学的同等の許容域とすることもある.
詳細についての説明は引用資料に委ねたいと思いますが、ガイドラインでは、血中濃度の指標について先発医薬品と比べて±20%、場合によってはそれより広い範囲の許容範囲が認められているということになります。
この±20%という許容範囲はどの程度のものなのか、ちょっと推察しかねます。そこでこの許容範囲についての専門家の意見を確認することにしました。
【日本臨床薬理学会】ジェネリック医薬品‐先発品と薬物動態の違いも(薬事日報)
一方、日本ではGE薬の効能・効果、用法・用量が同一であると説明されているが、内田英二氏(昭和大学第二薬理学)は、「そこまで言い切っていいのか」と疑問を投げかけた。
実際、内田氏が添付文書の記載を検討してみると、気管支拡張薬ジプロフィリン注のGE薬のうち、静注不可の製品が存在するなど、用法に違いのあることが分かった。また、抗真菌薬イトリゾールのGE薬には、爪カンジダ症、カンジダ性爪囲爪炎といった先発品の適応症がない製品もあり、効能にも違いのあることが判明した。
さらに、チクロピジン、グリペンクラミド、クラリスロマイシンなどで、複数のGE薬の添付文書を比較した結果、薬物動態パラメータ値が先発品と比べて4倍近い差があったことから、内田氏は「日本人で約4倍の違いは臨床薬理学的に認められない」と問題視。「先発品からGE薬に切り替えたときの血中濃度が予測できないというのが現場の実感」と話した。
その上で、「治療域が狭い医薬品に関しては、同じであるという理解のみでGE薬を処方するのは、現場としては危険だ」と注意喚起した。
GE薬をめぐる大きな動きとしては、医師が処方せんに“変更不可”と署名しない限り、先発品が投与されないという処方せん様式の変更がある。ただ、現在の生物学的同等性試験は、あくまでも先発品との比較。GE薬間の同等性は科学的に保証されていないのが現状で、この問題をどう解決するかも今後の大きな課題になってきそうだ。
これらの検討を踏まえて内田氏は、「医療現場でGE薬がより使われるためには、医療現場でGE薬に対する信頼性を確保することが最も必要」との考えを示し、GE薬業界、行政、医師、薬剤師、患者が正確な情報を発信・共有することが最初のステップになると提言した。
一方、政田幹夫氏(福井大学病院薬剤部)は、米国でのGE薬をめぐる大論争の歴史を例に挙げながら、FDAが有効性・安全性を保証し、承認しているという審査体制の違いを指摘した。現行の審査体制に関しては、先発品を審査する人員でさえ、日本と米国で約10倍の開きがあり、GE薬の審査体制はさらに貧弱な状況にある。そのため政田氏は、米国並みの審査体制の充実を強く求めた。
<一部抜粋>
LIBRA vol.43
後発医薬品の現状と課題
後発医薬品の主要な承認要件である生物学的同等性に関して、わが国においては「生物学的同等性試験では、 通常、先発医薬品と後発医薬品のバイオアベイラビリティを比較する。それが困難な場合、又は、バイオアベイラビリティの測定が治療効果の指標とならない医薬品では、原則として、先発医薬品と後発医薬品との間で、効力を裏付ける薬理作用、又は、主要効能に対する治療効果を比較する(以下、これらの比較試験をそれぞれ薬力学的試験及び臨床試験という)。また、
経口製剤では、溶出挙動が生物学的同等性に関する重要な情報を与えるので、溶出試験を実施する。」5)とされている。
一方、米国では 「This system of assessing bioequivalence of generic products assures that these substitutable products do not deviate substantially in in-vivo performance from the reference product.」6)とされている。
米国FDA は後発医薬品の各製剤に対して治療同等性(安全性、有効性)を含めたランク付けを
行っており、すべての条件を満たしたものだけを「同等である」としている。米国では実証的同等性が求められているのに対し、わが国で求められている同等性は推測的と思われ、本邦の承認条件は米国と比べやや問題があるのではないかと感じている。
<一部抜粋>
LIBRA vol.43鼎談 後発医薬品を考える政田 後発品とは、先発品と有効成分が同一であり、かつ用法・用量が同一であるものをいいますが、先発品と同じ添加物が使用されていない場合もあります。米国では「後発品と先発品は必ずしも同等ではない」との認識に基づき、米国食品医薬品局(FDA)は『承認医薬品と治療同等性評価』(通称「オレンジブック」)1)で後発品のランク付けを行っていますね。
柳川 先発品では問題なかったのに後発品を投与してアレルギーが出た症例があり、検討したところ添加物が原因だったケースがあります。その添加物が配合されていることが既知であれば、副作用に対して注意を払うことができますが、「後発品は先発品と同じ」という観点から後発品を用いると、添加物による副作用が副作用として認識されず、違う疾患としてとらえられてしまう可能性があります。
杉本 純度試験方法が異なると、それまで検出されなかった不純物が検出されるということがありますね。
政田 私どもは非イオン性造影剤イオパミドールの先発品と後発品において高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて品質試験を行いました。日本薬局方のイオパミドール類縁物質の試験項目に準じた方法での分析では先発品と後発品との間に大きな差を認めませんでしたが、他の条件で分析したところ、先発品には認められない複数の未知物質が検出されました2)。先発品では毒性試験が必須ですが、後発品の承認申請には毒性試験のデータは必要ではありません。しかし、先発品に含まれない未知物質が含まれていることもあるので、やはり何らかの行政指導は必要だろうと思います。
<略>
政田 生物学的同等性についてはいかがでしょうか。
杉本 生物学的同等性とはバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が同等であるということですが、これは有効成分の血中濃度の測定および溶出試験により評価されます(図1)。
政田 後発品における溶出試験は明らかな非同等性を排除するものであって、同等であることを証明するものではありませんね。米国でも先発品と後発品の生物学的同等性の差として、基準では約± 20%ですが、実際は平均約3.5%といわれています。しかし、日本では実際のところ、どの程度の差があるか不明ですね。± 20%の許容域は随分大きいですよ。柳川先生は球形吸着剤において先発品と後発品の吸着性能を比較したところ、吸着プロファイルに差を認めたと報告されていますね。
柳川 はい。私どもの成績は基礎的データですが、in vitr o の実験でイオン性有機化合物の吸着除去率や、糖およびペプチド・たん白質の吸着除去率の分子プロファイルを測定して差がみられたことを報告しています3)。
政田 先発品と後発品で有効性や安全性も異なる可能性があることを念頭に置く必要がありますね。
<一部抜粋>
後発品は先発品と同等ではないという原則
いろいろ問題点はあるようです。米国と同じ基準であっても、後発品は先発品と同じであることが強調される日本とはやや事情が異なるように感じます。後発品と先発品は同等ではない、という出発点は重要であるように思えます。情報があまり公開されてこなかったということも、この原則が影響しているのかもしれません
後発医薬品の情報提供のあり方についても問題になっているようです。
Availability of Drug Information on Bioequivalence of Generic Products
-Findings of Graduate Interns at a University Pharmacy-
M. Onda, M. Kanematsu, T. Kitamura, T. Sakai, K. Sakagami, K. Tanaka, Y. Hamahata, T. Hirooka, K. Fujii, M. Matsuda, H. Miki, H. Mashimo, R. Hada, and Y. Arakawa
J. Pharm. Soc. Jpn., 127(7),1159-1166, 2007
http://yakushi.pharm.or.jp/FULL_TEXT/127_7/pdf/1159.pdf
2006年当時の調査ですが、後発品、先発品との比較ともに情報が得られにくかったことが伺えます。また、得られた情報については、一部を除きおおむねガイドラインの許容範囲内にあったようです。
ジェネリック医薬品情報はオレンジブックで
情報提供については、現在、日本版オレンジブックが公開されています。
オレンジブック総合版ホームページ
生物学的同等性試験の結果を含め、多くの薬剤で薬物動態グラフが閲覧できるようになっています。このような情報を利用しながらジェネリック医薬品をひとくくりにして判断せず、それぞれの薬についてよく情報収集して吟味すべきなのかもしれません。