脳性まひ患者で障害を抱えながらも、小児科医となった熊谷さんの「リハビリの夜」を紹介します。
脳性まひの、障害者の身体感覚を言語化した、画期的著作ではないかと思います。ぜひ医療関係者はご一読を。
ただ障害について記述するだけにとどまらず、「協応構造」(ベルンシュタイン)という概念を使って思慮深い自己分析が展開されています。
「教師あり学習」は、運動や表象イメージの分節化を再生産する学習で、<まなざし/まなざされる関係>のもと、予測的な内部モデルの習得によって、人やモノとつながりをもつことができるという順序となります。
それに対して「教師なし学習」は、手探りで新たな分節化を立ち上げる独創的な学習で、<ほどきつつ拾い合う関係>に身をゆだねながら、人やモノとつながりながら新たな内部モデルを習得していくという順序になります。
この教師なし学習のような体験によって、人は発達していくのかもしれません。
著者が18歳で障害を抱えながらも一人暮らしに踏み切った経験を例に、これまで目指していたつながり方をあきらめ、挫折や痛みや悲しみを味わうことと引き換えに、自由度が高まって、周囲との新たなつながりへと開かれていく解放が訪れる、と述べています。このことを「敗北の官能」と名付けていますが、自由度の凍結と解放を繰り返すことで人は発達するという主張には説得力があります。
何も与えられず、挫折を味わうことから、身体外協応構造を獲得していくことも学びのひとつだ、というのはまさに共感できるものでもあり、示唆に富む分析ではないでしょうか。
書評はこちら。
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今週の本棚:養老孟司・評 『リハビリの夜』=熊谷晋一郎・著
(毎日新聞 2010年3月7日 東京朝刊)
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