家庭医はコンビニではない

 

 Textbook of Family Medicine 改訂版を読み直しています。家庭医たるものはどうあるべきか。明確に道筋が示されている名著と思います。ゆっくり噛みしめながら読み進めたいと思います。

家庭医はコンビニ?

 家庭医はよくコンビニエンスストアに例えられることがあります。高級品や珍しいものは手に入りませんが、普段よく使う日用品は24時間いつでも手に入れられます。臓器別専門医は百貨店や専門店に例えられるわけです。
 しかし、どうもこの例えがしっくりきません。
 ともすれば、家庭医はどんな病気でも知識をもって対応しなければならない、と思われがちですが、それは誤りであるとTextbook of Family Medicineにも書かれています。家庭医とは、必ずしも何時でもどんな問題でも対応できる便利な医師のことではない、のです。

靴屋が勧める靴は履き心地が良いか?

 最近、靴屋で靴を購入しました。量販店ではなく、靴専門店です。いろいろ履いてみて迷っていると、履き心地が少し悪い小さめの靴のほうを勧められました。「お客様の足には、こちらのほうが足に合ってくるはずです」と。
 革靴は少し履いていると徐々にこなれてきて足にフィットしてきます。しかし、本当にフィットしてくるかどうかは、その場で短時間試着しただけではわかりません。そこで、店員のアドバイスは大変重要となるわけです。これにはこういう理由です、と論理的に説明してくれました。
 しかし、靴屋さんはどうやってこの靴のほうが足に合って、その後数年間愛用することになった、という結果を知るのでしょう。どのようにフィードバックされているのでしょうか。

大衆性か個別性か

 量販店ではたくさんのお客さんに一定のサービスを提供することが目的となりますから、なるべく汎用性があり、多くの人に受け入れられやすい商品を並べて、個別性より大衆性を優先して売られていると思います。この靴を購入した客が数年後どうなったか、というよりも、当店の顧客数が増えているかどうか、でフィードバックされて判断しているといえます。これはコンビニエンスストアも同じことです。
 これに対して、町の商店街の靴専門店では、客の嗜好や生活スタイル、足の形まで考え、より適切と思われる選択肢を提供します。店員と顔見知りになり、またその店を利用することではじめて、売った靴の履き心地はどうか、問題が起きていないかなど、個別性の高い情報が得られ、フィードバックされているのではないかと推察されます。

家庭医は商店街の靴屋に似ている

 これを医療に例えると、どうなるでしょうか。
 いつでも、全国一律で、質の高いサービスを提供しようとする、量販店チェーンやコンビニのモデルは臓器別専門医と重なります。そして、家庭医はまさしく、町の商店街の靴屋ではないでしょうか。
 いつでも(救急医療)、どんな問題でも(専門医療)というわけにはいきませんが、お客様に合った治療は提供できると思います。家庭医として、そんな町の商店街の小さな靴屋を目指したい。そう思います。


Textbook of Family Medicine
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