週刊医学界新聞から。黒川清さんと木村健さんの対談です。一部抜粋しますが、ぜひリンク先の全文をご覧ください。
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Principleのない日本,“医療崩壊”の打開策とは
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02824_01
現在進められている一つひとつの政策がその場しのぎのパッチワークになっていて,将来を長期的にとらえた大きなビジョン,グランドデザインがありません。なぜかというと,医療をめぐる課題についてのprinciple(基本的理念,普遍的な原理原則)を理解していないからです。
“医療崩壊”の源流をたどれば医師不足に行き着きます。医師不足の解消には絶対数の補充はもちろん重要ですが,医師のパフォーマンスおよび医師の偏在を論じなければ意味がありません。
私が勤務していたアイオワ大学病院では,1人の外科系医師が1年に約360件の手術を行います。日本の大学病院で年に100件手術を行う医師はほとんどいないでしょう。この違いの背景には,病院の運営方針,手術室数,麻酔医数,医師の支援人員などさまざまな要素があります。それらを解決し医師のパフォーマンスを向上させれば,医師不足を緩和する十分な余地があります。黒川先生がおっしゃるように,医学部の定員を増やしても効果が出るのは10年先です。医師のパフォーマンスの向上は,今すぐ着手して直ちに効果が期待できる手段なのです。
医学教育にはかなりの額の社会資本が使われています。学生が臨床医として医療に尽くすと願っての出費です。若手医師を大学院が囲い込んでしまえば,医療現場のマンパワーが不足して当然でしょう。矛盾しています。
日本では医師臨床研修制度の発足以来,新卒医師の大学病院離れが起こりました。人手不足に困った大学医局関係者は,政府に働きかけて臨床研修制度の見直しを求めました。安全な医療提供のため有能な医師の育成をめざして始めた研修制度を自分たちの都合で壊そうとしている。日本の医療は原理原則を欠いているのが問題です。
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日本の医療における諸問題への対処は,個別に技術的な応急処置が行われている、との指摘は鋭いものです。
医学教育,卒後研修,医療制度を連動させるには共通のprincipleに立つことが必須でしょう。姑息的な治療ではなく、臨床医育成と医療制度そのものの根治的治療が必要な時期ではないでしょうか。