上気道咳症候群(UACS)

 

 これまで後鼻漏症候群と呼ばれていたものは、現在より正確な「上気道咳症候群(upper airway cough syndrome)」という呼称になっています。ガイドラインが出ていました。

Chest. 2006 Jan;129(1 Suppl):63S-71S.
Chronic upper airway cough syndrome secondary to rhinosinus diseases (previously referred to as postnasal drip syndrome): ACCP evidence-based clinical practice guidelines.
Pratter MR.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16428694

  • 長引く急性咳の原因としては最も多いものである。
  • 診断は症状、身体所見、X線所見、治療に対する反応などの組み合わせにより行うが、特異的な診断法はない。 (症候群である)
  • 後咽頭への後鼻漏、咽頭クリーニング、鼻漏、後咽頭の敷石状変化、治療的診断(第一世代の抗ヒスタミン・充血改善薬)などがある。
  • 鑑別診断はアレルギー性鼻炎、非アレルギー性鼻炎(血管運動性鼻炎、好酸球性非アレルギー性鼻炎NARES)、感染症後UACS、細菌性副鼻腔炎、アレルギー性真菌副鼻腔炎、解剖学的異常による鼻炎、刺激物による鼻炎、職業的鼻炎、医原性鼻炎、妊娠鼻炎

 

 咳のガイドラインが改訂されていたんですね。

 勉強していると早速患者さんがやってくるのは不思議です。

 かぜをひいたあとで2週間以上咳が止まらない20歳代女性。開業医でよくならないので、検査をしてほしい、と深刻そうな表情で受診されました。Cobble-stone appearance はみられませんでしたが、後鼻漏もみられ典型的なUACSでした。

 血液・胸部X線検査でも異常なし。抗ヒスタミン薬を処方しました。

「上気道咳症候群ですね。」

「よくわからないですが、かぜじゃなかったんですね。」

 
 後鼻漏症候群のほうが説明がしやすかったような気がします。
 「上気道咳症候群」をGoogle検索してみました。長引く咳は非常に頻度の高い症状のはずですが。

上気道咳症候群 5件
"upper airway cough syndrome"(日本語のみ) 8件

 

 日本ではこれしかヒットしませんでした!

 2006年のAmerican College of Chest Physiciansのガイドライン *1 は日本ではあまり認知されていないようです。

 そもそも長引く咳の原因は呼吸器科の病気だけではありません。耳鼻科、消化器科、循環器科領域にも関連します。ひとりの専門医では解決できず、効率も悪くなる症状のひとつです。幅広い領域を扱う家庭医の腕の見せ所でもありますね。

*1:Chest. 2006 Jan;129(1 Suppl):1S-23S.
Diagnosis and management of cough executive summary: ACCP evidence-based clinical practice guidelines.
Irwin RS, Baumann MH, Bolser DC, Boulet LP, Braman SS, Brightling CE, Brown KK, Canning BJ, Chang AB, Dicpinigaitis PV, Eccles R, Glomb WB, Goldstein LB, Graham LM, Hargreave FE, Kvale PA, Lewis SZ, McCool FD, McCrory DC, Prakash UB, Pratter MR, Rosen MJ, Schulman E, Shannon JJ, Smith Hammond C, Tarlo SM; American College of Chest Physicians (ACCP).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16428686

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