臓器別専門医療では社会が混乱する

 

 「総合医」の養成が緊急課題-医事評論家水野肇さんの「正論」より

 しかし、日本では、臓器別の医学というものは、何とか欧米に近いものができつつあるが、一般の住民を診る「総合医」のようなものは、端的にいうと、育っているとはいえない。臓器別の医療も無論大切であるのはいうまでもないが、これからの日本を見渡すと、昭和50年には死亡者の3割が75歳以上だったが、現在は3人に2人が75歳以上、30年先には、4人に3人が75歳以上になる。
 これらの人たちを臓器別専門医療で対応するということになればどうなるだろう。社会自体が混乱することになるのではないか。75歳以上の後期高齢者は、それぞれの人々が「いかに死ぬか」という哲学を持つ必要があるが、それとともに、広い視野からお年寄りたちを十分に看取りながら、老人と一緒に生きていく「総合医」が必要で、この総合医の養成をいますぐ始めないと、高齢社会を乗り越えることができない。
 医師の世界でも、臓器別医療をする専門医のほうが、総合医より偉いのだと思っているまちがった考えの人たちも多い。専門医というのは“時計の修理工”のようなもので、碁盤の一目しかできない。しかし、総合医はもっとも地域住民に近いところで、人を診る仕事なのである。こちらが、医療の本流であることはまちがいないのである。この問題を解決しないと先に進めない。


 まさしく現代医療の問題点をとらえた論説だと思います。臓器別専門医をいくら増やしたところで、超高齢化社会に対応できるとはとても思えません。日本の医療の危機的状況を打開するためには、地域医療に対応できる家庭医の育成が急務と思います。

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