30歳代の高血圧初診。健診で2年前から指摘されていました。肥満がみられますが、甲状腺刺激ホルモン(TSH)軽度低下以外に明らかな二次性高血圧の徴候はみられません。心血管疾患の既往歴や標的臓器障害、危険因子もありません。
収縮期血圧が200mmHg以上で頻脈がみられました。生活習慣改善とともにβ遮断薬を降圧剤を処方することにしました。
ここで、β遮断薬は悪い選択でしょうか。メタ分析を読んでみました。
Cochrane Database Syst Rev. 2007 Jan 24;(1):CD002003. Beta-blockers for hypertension.Wiysonge CS, Bradley H, Mayosi BM, Maroney R, Mbewu A, Opie LH, Volmink J. PMID: 17253471
- 高血圧の方に
- β遮断薬を投与すると
- プラセボまたは他剤に比べて
- 全死亡・心血管疾患は減るか
- 治療、メタ分析(13研究, n=91561)
結果
全死亡
対プラセボ RR 0.99[95%信頼区間 0.88 to 1.11] 有意差なし
対カルシウム拮抗薬 RR 1.07[95%信頼区間 1.00 to 1.14], NNH=200
心血管疾患
対プラセボ RR 0.88[95%信頼区間 0.79 to 0.97], NNT=140
うち脳卒中 RR 0.80[95%CI 0.66 to 0.96] NNT=200
対カルシウム拮抗薬 RR 1.18[95%CI 1.08 to 1.29], NNH=80
うち脳卒中 RR 1.24[95%CI 1.11 to 1.40], NNH=180心血管疾患の有意差は主に脳卒中によるもので、冠動脈疾患は差がなかった。
副作用による治療中断は、他剤に比べて多かった。(対利尿薬NNH=16, レニンアンギオテンシン系拮抗薬NNH=18)
β遮断薬を使うと、プラセボと比較して140人に1人心血管疾患を予防する効果があり、死亡を減らすことはできないということになります。
カルシウム拮抗薬と比較すると、200人に1人死亡をふやし、80人に1人心血管疾患をふやすということになります。
著者らは、β遮断薬を第1選択とすることを支持しない、と結論づけています。
これらのβ遮断薬の研究の多く(75%)はatenolol(テノーミンなど)が使用されています。
年齢が若い高血圧の方に対してのβ刺激薬のメタ分析がありました。
CMAJ. 2006 Jun 6;174(12):1737-42. Re-examining the efficacy of beta-blockers for the treatment of hypertension: a meta-analysis.Khan N, McAlister FA. PMID: 16754904
- 60歳未満の高血圧の方に
- β遮断薬を投与すると
- placeboまたは他剤に比べて
- 心血管疾患を減らすか
- 治療、メタ分析(21研究、n=145811)
結果
対プラセボ
60歳未満 RR 0.86[95%信頼区間 0.74-0.99]
60歳以上 RR 0.89[95%信頼区間 0.75-1.05]
対他剤
60歳未満 RR 0.97[95%信頼区間 0.88-1.07]
60歳以上 RR 1.06[95%信頼区間 1.01-1.10]
とくに60歳以上の脳卒中ではリスクが悪化
RR 1.18[95信頼区間 1.07-1.30]
若年ではプラセボに対しても他剤に対しても、心血管疾患を減らす効果が期待できそうですね。若年者の場合はβ刺激薬も選択肢のひとつと考えられるのではないでしょうか。
しかし、60歳以上となると効果は厳しいようです。合併症のない60歳以上の高血圧治療としては他剤が優れるため、第1選択からはずしておいたほうがよいのかもしれません。