地域医療日誌 by COMET

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抗うつ剤で自殺が増加?

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  SAPIO2011年10月5日号の記事「1998年以降抗うつ薬の売り上げ増加と自殺者激増が一致」が9月28日に配信されました。

自殺予防のための内閣府による早期受診キャンペーンを目にしたことはないだろうか。 
「お父さん、眠れてる? 眠れないときは、お医者さんにご相談を」   
人口にこそ膾炙(かいしゃ)しているが、その成果は見る影もない。今年も9月10日から自殺予防週間が始まったが、日本の自殺者は一向に減っていないからだ。1998年以降、自殺者は常に3万人を超えており、先進国のなかで最悪の道を突っ走っている。 
相次ぐ自殺に国は2000年に初めて自殺予防対策を施策として取り上げ、2002年に自殺予防に向けて提言を行なった。その軸となったのが「精神科の早期受診」キャンペーンである。その根幹には、「多くの自殺者は精神疾患がありながら精神科や心療内科を受診していなかった。生前に医師が診察していたら自殺は防げたはずだ」という考えがあった。 
しかし、その論理は現在、根底から覆っている。

根底から覆っている?

  この記事に示された論理では、到底根底から覆っているとはいえないだろう。何もしなくても自殺が増加した自然増加の可能性も考慮していない。反証としては稚拙である。

  科学的な根拠を踏まえていない「いい加減」な記事が、このように堂々と発表されていく理不尽さを痛感します。

   抗うつ薬で自殺が増加しているのではないか、という懸念が米国FDAから発表されたのが2005年。その前後で、抗うつ薬に関するメタ分析がいくつも発表されています。残念ながら、それらついての言及が記事の中では全くないようです。

抗うつ薬で自殺は増えているか?

  抗うつ薬で自殺が増えているかを検証した代表的なメタ分析をいくつか紹介します。結論からいえば、今のところ抗うつ薬によって増えているとも減っているとも証明できていない、という現状のようです。


  ランダム化比較試験のメタ分析では、自殺について一定の傾向がみられていません。

Khan A, Khan S, Kolts R, Brown WA. Suicide rates in clinical trials of SSRIs, other antidepressants, and placebo: analysis of FDA reports. Am J Psychiatry.2003 Apr;160(4):790-2. PubMed PMID: 12668373. (※※※)
48,277人のうつ病患者のうち、自殺は77人にみられた。抗うつ薬SSRIでは0.59%(95%信頼区間 0.31%-0.87%)、抗うつ薬0.76%(95%信頼区間 0.49%-1.03%)、プラセボ0.45%(95%信頼区間 0.01%-0.89%)と明らかな差がみられなかった。
Gunnell D, Saperia J, Ashby D. Selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs)and suicide in adults: meta-analysis of drug company data from placebocontrolled, randomised controlled trials submitted to the MHRA's safety review.BMJ. 2005 Feb 19;330(7488):385. Erratum in: BMJ. 2006 Jul 1;333(7557):30. PubMed PMID: 15718537; PubMed Central PMCID: PMC549105. (※※※)
40000人以上の参加者のうち自殺は16人。抗うつ薬SSRIによる自殺のオッズ比は0.85(95%信頼区間 0.20-3.40)と、治療が自殺を増やしていることは確認できなかった。
Hammad TA, Laughren TP, Racoosin JA. Suicide rates in short-term randomizedcontrolled trials of newer antidepressants. J Clin Psychopharmacol. 2006Apr;26(2):203-7. PubMed PMID: 16633153. (※※※)
40,028人の参加者のうち、21人の自殺者。躁うつ病では、プラセボに比べて治療薬による自殺のリスク比は1.07 (北米以外、95%信頼区間 0.1-63.4)、0.5 (北米、95%信頼区間 0.0-36.7)となり、どちらともいえない結果であった。

   観察研究のメタ分析では、むしろ自殺が減っているという傾向になっています。

Simon GE, Savarino J. Suicide attempts among patients starting depressiontreatment with medications or psychotherapy. Am J Psychiatry. 2007Jul;164(7):1029-34. PubMed PMID: 17606654. (※※) 
Simon GE, Savarino J, Operskalski B, Wang PS. Suicide risk duringantidepressant treatment. Am J Psychiatry. 2006 Jan;163(1):41-7. PubMed PMID:16390887. (※※)

  製薬会社の関与など、結果の信頼性に疑問符がつくものもあるかもしれませんが、現時点ではこのような科学的根拠を踏まえた反論・反証が必要ではないでしょうか。

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