卒後臨床研修は大きな後退

 
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 卒後臨床研修制度は必修科目が削減されることになりました。この見直しは、臨床研修制度の理念を忘れた「日本の臨床医養成システムの大きな後退」であると思います。週刊医学界新聞に安日一郎さん(国立病院機構長崎医療センター産婦人科・部長)が重要な指摘をしていますので、ご紹介します。
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卒後臨床研修の必修科目削減における問題点
――Women's health careの担い手育成の立場から


専門医養成は本当に急務か?

 日本の医療の現状では,不足している診療科専門医の養成が急務であり,「のんびりとプライマリ・ケアを教えている暇はない」という意見がある。産婦人科はその不足しているという診療科のひとつであるが,産婦人科医である私に言わせれば,これは本末転倒な見方である。産婦人科専門医教育しかしてこなかったために,わが国の大多数の産婦人科医はプライマリ・ケア能力に乏しく,そのために女性のヘルスケアの担い手としての力量不足の感が否めない

 例えば,いまや国民病とも言うべき糖尿病は,産婦人科で診療する子宮がん患者でも妊婦でも,内科合併症としてとても頻度の高い疾患であることは言うまでもない。専門医教育しか受けてこなかった産婦人科専門医は,周術期や周産期の管理において,糖尿病患者に欠かせないインスリン治療が使いこなせない。糖尿病専門医からみるととても貧相な医療が行われている現状がある。ここでいう産婦人科専門医を,脳神経外科,整形外科など他の診療科に置き換えても同様であろう。一方,いまや医療従事者でなくとも市販薬で行える妊娠反応検査すらできずに,女性の急性腹症と言えばすぐCTをオーダーする内科専門医を再び育成しようというのか。

 卒後2年間の初期研修は,その医師の生涯にわたる力量のいわば土台を造る時期である。医学生とは異なり,医師免許を持ったプロフェッショナルとしての出発点である。その時期に,内科,外科,産婦人科,小児科,救命救急科,精神科,老人科,など多くの科を経験し,医療の基礎ともなるべきプライマリ・ケアの概念をきちんと身に付けることは,専門医養成課程の堅固な基礎となり,より視野の広い専門医の育成につながるものである。

 そして,産婦人科の必修化の維持は,女性のヘルスケアの視点の基礎を身につけた総合医や家庭医の育成につながり,総合的な経験と幅広い知識を有する女性医療の新しい担い手づくりに貢献するものと期待される。Women's health care providerの裾野が広がることは,われわれ産婦人科医が周産期医療,がん医療,生殖医療の専門医としてのより高度な医療に専念できる土台ともなり,むしろ専門医養成にとってもメリットは大きいのである。

 今回の制度見直しにおける産婦人科の選択必修科目への格下げは,そうした期待にブレーキをかけるものであり,ひいては先進国でも突出した低受診率を“誇る”乳がんや子宮がん検診の実態の改善から大きく遠ざかる一歩でしかない。
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質の高い専門医療のために

 臨床研修制度の見直しの議論は非常にがっかりするものでした。将来の日本を支える臨床医を育成する、そのためには教育システム構築が必要という理念に基づいた制度ではなかったのでしょうか。医師不足が深刻化したからやめるというのでは、あまりに短絡的です。
 一時的に医師不足が深刻化したとはいえ、臨床能力の高い研修医が育ちつつあったのも確かです。教育の成果はすぐには判断できませんが、きっと将来の医療を支えることになるでしょう。専門医療も質の高いものになるはずです。家庭医との役割分担も進むことでしょう。
 研修制度には5年、10年先を見据えたビジョンが必要です。卒前教育を含め、再度見直しされることを期待します。


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